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2023.6.4更新
依頼者:二男
被相続人(亡くなった方):母
法定相続人:長男(海外在住/行方不明)、二男(依頼人) 計2名
主な相続財産:預貯金(金融機関2行)
手続期間:約1年
・長男と二男は長年疎遠な関係にあり、長男が現在中国に居住しているという事実のみ認識していた。
・母の葬儀代その他相続に関する費用を依頼人が負担しており、自身の預貯金残高が心許なくなっているため、遺産によって穴埋めしたい。
まずは、相続手続きに必要な被相続人・相続人の戸籍・住民票や、預貯金に関する資料を集めます。
長男の住所履歴情報を収集したところ、現在、中国に居住しているらしいことは分かりましたが、詳しい住所までは分かりませんでした。
一般的に預貯金の相続手続きを行う場合、手続書類に相続人全員の署名と実印が必要となります。
そこで、まず行方不明の相続人の居所を割り出し、相続手続きに協力してもらうよう通知することから始める必要があります。
今回は、行方不明である長男が中国に居住しているという情報から、外務省に所在調査を依頼しました。
調査依頼には、依頼人や調査される人の戸籍や住民票、その他資料等様々な書類が必要となります。
※調査依頼から調査完了まで数ヶ月かかります。
数ヶ月の調査を経て、外務省から依頼人へ、長男の居住する国番号(中国)と電話番号の情報が送られましたが詳しい住所情報まではなく、これ以上の調査はできないとのことでした。
以上より、相続人と連絡を取る手段としてはいただいた電話番号に電話をかける以外にはありません。
依頼人に状況を説明し、依頼人からも弊所からも相続人へ電話をかけてみましたが、電話がつながることはありませんでした。
行方不明の相続人がいる場合、「不在者財産管理人」という、行方不明者に代わって相続手続きを行ってくれる人を家庭裁判所に選んでもらう方法があります。
このように相続人が行方不明な場合も、国はちゃんと対策を考えてくれてはいるのですが、不在者財産管理人の選任にはいくつかデメリットもあります。
1つ目のデメリットとして、実際に相続手続きに移るまでに相当な時間がかかるということです。
不在者財産管理人に遺産分割協議に参加してもらう場合、管理人の選任にまず1~2ヶ月程度、さらに管理人を遺産分割協議に参加させるために家庭裁判所の許可をもらわなければならず、これにもやはり1~2ヶ月程度の時間がかかります。
2つ目のデメリットとして、予納金の納付が挙げられます。
予納金とは財産管理人が財産を管理する際に不足の費用を補填するためのもので、不在者に預金等がなければ申立人が代わって負担しなければなりません。
予納金の相場は20~100万円程度で、決して安い金額ではありません。
依頼人は母の葬儀代等を負担しており、財政状態が逼迫していました。
不在者財産管理人制度についても説明しましたが、とても予納金を負担する余裕はなく、管理人選任の手続は諦めざるを得ませんでした。
こうしている間にも依頼人自身の財産がいよいよ底をつきはじめ、何か別の策を講じる必要がありました。
そこで「預貯金の仮払い制度」の利用をお勧めしました。
「預貯金の仮払い制度」とは、遺産分割前でも相続人のうち一人からの請求で、一定の金額を上限として預貯金の払い戻しを受ける制度のことです。
上限金額は下記のとおりです。
被相続人には銀行2行に預貯金があり、あわせて約150万円程度の払い戻しが見込めました。
各銀行へ、戸籍や依頼人の印鑑証明書、仮払いの請求書等の書類を提出し、仮払い上限額の払い戻し完了まで2ヶ月ほどお時間を頂戴しました。
残額の払い戻しについては、長男と連絡が取れ次第あらためてご相談いただくということで、依頼人へ収集した資料をすべてご返却し、相続手続きは終了しました。
仮払い制度を利用する場合に
注意することとは?
仮払い制度は、遺産分割協議前でも相続人の1人から金融機関に対して請求できます。他の相続人の同意も必要ないため、他の相続人からすると預貯金の残高を減らす行為と受け取られ、悪い印象を与えてしまう可能性があります。
仮払いで払い戻しを受けた金額の一部を自分の生活費などに当てると「単純承認」が成立します。
単純承認とは「無条件ですべての遺産を相続する」ことです。亡くなった人に借金があり、将来家庭裁判所に対して相続放棄を申し立てることを考えているような場合、単純承認をすると放棄が認められなくなりますので、仮払い制度の利用はよく考えて行うようにしましょう。
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